人の考え方は刻一刻と変化しているものだ。
最終的に都合良く考えてから忘れていくのが基本形である。
将来ふと思い出すとき、儚く美しい出来事となっているだろう。(カム作)
美醜転生
次第に夜は更けていった。
この広大な景色の中から一部分を切り取ることはとても難しいことに思えた。
硬直した指が僅かに震え、こめかみを流れる汗の量は確実に増えていた。
何度も後悔の念が左右の鼓膜を行き来した。
それらが鼓膜に達する瞬間、先の人生に逃げ場がなくなっていく気にかられた。
だが、仕事をやり遂げるまでは逃げる選択肢すら与えられないのだ。
この世には働くことすら不可能な人間は無数にいるだろう。
今置かれている状況は決して悪いものではなく、寧ろ一点の曇りさえもない硝子細工か何かではないか。
美しければ美しいほど、裏には必ず醜さが潜んでいるのではないか。
醜い物の存在こそが美しいという形容を成り立たせているはずだ。
そんなことすらも忘れゆく人類の抱える問題からすれば、なんともちっぽけな悩みだ。
己を諭すように実にゆっくりとシャッターを切った。
途端にぜんまいから手を離された玩具のごとく、淡々かつ正確に写真を撮り続けた。
もはや心からは何の迷いも湧き出てはこなくなり、ふと感じた清々しさが少々可笑しかった。
ファインダー越しに覗く醜い暗闇の中で、自分が葬った女の裸体が美しく転がっていた。