自我のない夢は映画のようで、小説化したくなる。
主人公がショートカットの美人であったら尚の事。
否、ロングヘアの美人でもまた然り。(カム作)
回葬列車
うだる暑さの夏の日の午後。
お盆休みを利用して祖父母の家に行こうと、ひとり電車に揺られていた。
今はしがないOLであるわたしだが、幼い頃に不思議な体験をしたことがある。
窓外の緑を眺めながら、あの奇妙な出来事を思い出していた。
15年前──。
目を疑う光景だった。
何と自分が乗っている電車や人がぼんやり透け始めたのだ。
しかし誰も透けていることに気付いていない。
……いけない。
このままこの電車に乗り続けていたら、確実に何か良くないことが起こる。
わたしは直感的にそう感じていた。
電車が近くの駅に着くと、すぐにホームに降りた。
次の電車を待つことにして、今乗っていた電車が出ていくのを見届けた。
その車体はもうほとんど見えないほどに透けていた。
ほどなく向かいのホームに電車が入ってきた。
いや、正確には入ってきた音が聞こえただけで、車体は全く見えていない。
だが確実に電車はそこに存在しているはずだ。
なぜなら透明な人たちがホームに降りる足音だけは聞こえているのだから。
そしてあろうことか、今度は駅全体が段々と透け始めているではないか。
ああ、これはまずい。
わたしは急いで改札へと走り出していた。
……ふと改札の外に1人だけ透けていない男の子がぽつんと立っているのを見つけた。
わたしが改札を抜けると、男の子は手招きをしてわたしの前を走り始めた。
この子に付いていけば助かると信じ、知らない土地に戸惑いながらも必死で追いかけた。
しばらく走り続けると、男の子は左右を見回しながら立ち止まり、
「ここまで来ればもう安心だよ」
と息も切らさずに言うと、今来た道を戻っていこうとした。
「え、そっちは危ないんじゃないの?」
問いかけるわたしに振り返り、男の子は笑顔で答えた。
「ぼくはずっとあの場所にいないといけないんだ」
突如、男の子の体が透け始めた。
「じゃあ、またね」
男の子は手を振り、駅の方向へと歩きながら消えていった。
……そうか。
あの子はこの世には存在していなかったんだ……。
時間はかかるが、わたしは祖父母の家まで歩いていくことにした。
とてもじゃないが、駅に戻る気にはなれなかった。
その日の夜のニュースは怖くて見ることができなかった。
15年後──。
忘れもしないあの駅に今、電車は止まっている。
「まもなく発車します」
とアナウンスされてドアが閉まり、ゆっくりと電車は動き始める。
ふと改札の方を見ると、あのときの男の子が、あのときの姿のままでこちらを見ている。
わたしは驚きながらも、何かを言おうとしている彼の口元に注目する。
「さよなら」
そう確認できた後、わたしの体は徐々に透け始めた。