ぼくは真理と白馬にやってきた。
1日目はスキーの特訓で終わった。
2日目は……スキーの特訓で終わった。
3日目は…………スキーの特訓で終わった。
ぼくはどうもスキーには向いていないらしい。
今日は4日目、朝から猛吹雪に見舞われていた。
下にはすでに美樹本さんがペンション『シュプール』に到着していた。
「ねえ君たち、幽霊とか見なかった?」
ギクッ、ぼくは飲んでいた紅茶を吹きそうになったが、
「知りませんね。何のことだか……」
と言って真理を見ると、真理もコクンとうなずいた。
そのとき、階段をドタドタと足音がした。
「透、しっかりしてよ!」
ドスッという大きな音と共にぼくは目を開けた。
「痛ッ!」
ぼくは食堂の椅子の上で寝ていたようだ。
そして真理のボディブローによって目覚めたようだった。
「大丈夫?」
ぼくは無言でうなずき、夕食の続きを楽しんだ。
あまりにもリアルすぎて本物かと思った。
……。
「げ!」
……そう、リアルすぎたのだ。
これが初めての夢精だった。
今日は良くないことが起きそうだ。
ぼくはベッドの横にある時計に目をやった。
短い針は6と7の間を指していた。
「さて、シャワーでも浴びようかな……」
「真理、真理……いるのかい?」
ノブを回すと鍵が掛かっている。
「あんなの嘘に決まってるよ。なっ?」
「……1人にして」
なんとも普段のあの明るい真理とは思えない声が返ってきた。
「分かったよ。ぼくは自分の部屋にいるから……」
そう言い残して自分の部屋へと戻った。
「ああ、言ってなかったかな?これは真理ちゃんの作戦だよ」
「作戦?」
「そう、君とHするためのね」
なーんだ、そうだったのか。
真理も案外照れ屋さんなんだな……。
ぼくは真理に近づいた。
真理の髪がぼくの喉を切り裂いた……。
「殺人事件篇の美樹本か!」
……ぼくのことどう思ってるの?」
真理はきょとんとした顔をして聞き返した。
「えっ。ど、どうって?」
「だから、好きとか嫌いとか」
「嫌いだったら一緒に来るわけないわよ」
「じゃあ、好き?」
真理は無言でうなずいた。
真理はぼくに飛びついてきた。
「私をずっと抱きしめていて、お願い!」
よし、手応えあり。
「部屋へ戻ろうか……」
「……うん」
小さな声で真理がうなずいた。
スパイ篇なんてもうどうでもいい。
ぼくはまた新しいシナリオに心を躍らせている。
『今夜、野田透、男を見せます』
「今夜、かまいたちが、現れる……」
小林さんが声を出して読み上げた。
「やったー!」
しまった。
あまりの喜びで大声を出しているのに気付かなかった。
「やっ……たーいへんですね、それは」
必死でフォローを入れておいた。
──不思議のペンション──
そうか、そうだったのか……よし。
「真理、宝を探しに行こう!」
「宝って、どんな?」
「確か幸せが一杯詰まっているという幸せの箱だったと思う」
「まあ素敵!」
「よし決まり!」
ぼくたちは暗い階段をゆっくりと降りていった……。
「デヘ、デヘ、デヘヘ……」
思わず鼻血を抑えた。
「透、何考えてんのよ!ほら透の部屋に行くよ」
ぼくは幽霊篇の始まりに胸を躍らせた。
ぼくの部屋に入ると、ベッドに座った。
「さすがに疲れたね。もうガタガタだよ」
「慣れない内はね。私は全然疲れてないわよ」
「失礼しまーす」
と言いながらドアを勝手に開け、目の前に広がる光景は──。
言うまでもなく真理と田中さん……いや、田中の合体した姿だった。
それもバック……。
ぼくが入ったことに気がついたのか、真理が驚いてこっちを見ていた。
ぼくは……
「あの人、真理に似てない?」
「あんなブスに?失礼しちゃうわね」
「誰がブスよ、誰が!」
そして2人の壮絶な闘いが始まった……。
もちろんぼくは真理に加勢した。
と、その時。
「えっ!と、俊夫さん……や、やめ……」
そっくりさんは……まさか……みどりさんなのか?
「え、透はまだボーゲンがやっとじゃない。そんなの無理よ」
真理は拒否したがぼくは続けた。
「真理、昨日実はナイターに行ったんだ。そこでマスターしたんだよ、パラレルを!」
もちろん嘘だが、このペースで行くと不思議なペンションに行けないのだ。
「ご馳走様。さあ真理、行こう」
もう無理矢理だ。
階段を上がる時、真理の青ざめた顔があった。
「大丈夫かい?何か顔色悪いよ」
真理はこっちを見て
「ん、何が?全然大丈夫よ、ほら」
と言ってぼくの前でデンプシーロールをしてみせた。
「じゃあ透、お・や・す・み。」
と言って投げキッスをしてきた。
な、なんて色っぽいんだ……。
「透、真理……私たちただ同姓同名なだけでしょ?」
「え?何言ってんだよ。今までこれ書いてんのが無駄になるようなこと言うなよ!」
「知ったこっちゃないわよ。こっちがノイローゼになってもいいってんの?」
「何か言葉遣いが変だよ、真理」
「うるさいわね。もう疲れてんの!放っといてよ!」
それだけ言うと、マリは裸のままぼくの部屋を飛び出していった。
「風邪ひくよ、和美!」
「真理、分かったよ」
とだけ言い残し、ぼくもスパイになりきることにした。
なんて過激なスパイ篇なんだ。
女の人はえ〜と真理、OL3人組、みどりさんに今日子さん、そして春子さん。
7人か……。
その中では最も妖しい……いや怪しいのは、う〜ん誰だろう。
よし、決めた!
春子さんだ!
「ウワア〜!」
真理の口から低い女の声が聞こえた。
そして真理の体から青白いものが出ていくのが見えた。
「行ってしまったんでしょうか?」
「ああ、行ったよ。ぼくには分かる。それより、君は彼女を頼む」
「分かりました。任せて下さい」
ぼくは立ち上がり、真理の方へ向かった。
──3年後。
ぼくは大学を卒業した。
真理はもうこの世にはいないけど、ぼくの心の中で生き続けている。
……あの時、可奈子と岸本がペンションに来てなかったら、こんなことにはならなかったのに……。
可奈子を信じていたのに……。
まあ、もう今となっては関係ないが……。
ぼくは真理が眠る場所へと向かった。
しかし真理は階段を一気に駆け上がり……バタンという音。
そして再び沈黙がおとずれた……。
30分経っただろうか、鳩時計はもう9時半を指していた。
「ぼ、ぼくも上がりますね。真理も心配ですし」
ぼくは談話室の皆を横目に階段を2段飛ばしで上がった。
コンコン……。
き、きたぞ!
ついにこの時がきたぞ!
ドーテー生活にピリオドを打つ時がやっときたんだ。
「入っていい?」
「あ、ああいいよ」
声が上ずっていた……。
「飲みましょう?」
もちろん可奈子……いや、香山さん?
「す、凄いわね」
「ああ……」
そう、ぼくたちはすでにスペシャルコースの頂上にいるのだ。
この眺めは最高だが、これを目の前にしてさすがの真理も少しビビッている。
「じゃあ、行こうか」
この後は言うまでもない。
ぼくは木に激突してしまったのだ。
「透、パラレルできてないじゃない」
OL3人組だ。
「ぎゃあああー!」
という悲鳴をあげて小林さんに言った。
「幽霊よ、幽霊が出たわ!」
と、少しヒステリー気味になった可奈子ちゃん。
「やっぱり出ましたか。このペンションはオバケが出ると噂になっていますからね」
美樹本さんがしゃしゃり出た。
「なんでそんな根拠もないことを言うんです?いい加減にして下さい」
小林さんが怒鳴った。
「透?」
その呼びかけでぼくは目を覚ました。
「透、夢精してるわよ。そんなに気持ち良かったの?」
「え?」
見ると2人とも裸だ。
「覚えてないの?」
「ああ……」
何でこんなことになったんだろうか……。
「……シナリオ?どういうことだ?」
ぼくは首をかしげた。
「馬鹿ね!忘れたの?殺人事件篇でしょ。スパイ篇、それに幽霊、オカマ、宝探し。もしかしたら不思議のペンションまであるかも……」
どうやら真理は全て知っているようだ。
そう言われれば確か……
ああ、朝食の時間か。
ぼくは、皆の寝ぼけた顔を見ながら食堂に入った。
「いただきまーす。今日も透の特訓するわよ。覚悟なさい」
真理はどうやら元気一杯のようだ。
「ねえ真理……
でも、大学の友人の話では真理のセックスは激しいと言ってたからな……。
調理されないように気をつけなくちゃ。
そしてぼくは……
ぼくは香山さんの部屋のドアを開け……たと同時に春子さんのツバメ返しが……。
とはいっても今行くのはちょっと……他の人に見られたら知り合いかと思われるし……。
ぼくは皆が寝静まるのを待つことにした。
待つこと2時間──。
『よし、時は来たり』
廊下を滑り歩き、一気に田中さんの部屋に着いた。
コンコン。
「田中さーん。すいませんが、相談あって来ましたー」
ぼくは静かに言った。
談話室では小林さんとOL3人組がなにやら言い争っていた。
「何を言い争ってるんです?」
ぼくは割り込んで聞いた。
「いやね、彼女たちの部屋にこんな物が……」
ぼくはその1枚の紙を見た。
そこにはこう書かれていた。
それは……可奈子ちゃんだった。
しかも、口から血を出して死んでいた……。
「う、うわあああ!」
……。
「え?」
目を少し疑った。
隣にいた真理か可奈子ちゃんかよく分からないけど、その女性はいなかった……。
「な、なんだ……夢か……」
そう、夢だったのだ。
ベッドに横になって15分……。
中々寝付けない。
ふうっと寝返りを打ったときだった。
「ぎゃあああ!」
男の叫び声がペンション内に響き渡った。
ぼくはすぐさま部屋を飛び出し、真っ先に田中さんの部屋へ。
「田中さん、失礼しまーす」
ガチャ!
「お帰りなさい」
小林さんが言った。
小林さん……このペンションのオーナーで、真理の叔父さん。
やはり気のせいか、と思ったときだった。
2階へ上がると部屋の配置が全くといっていいほど変わっている。
ま、まさかこれは……。
外に出れば変わるというあの伝説の……。
「マッサージしてあげよっか。私、上手いんだ」
「き、気持ちいい……」
思わず声が上ずった。
「もう少し上……」
とよからぬことを考えたときだった。
「きゃっ、今誰かが窓から覗いてたわ」
ぼくは必然的に……
ぼくはソファに座ってテレビをつけた。
上手い具合に天気予報がやっていた。
「あ、ちょうどいい。どれどれ……今日は快晴か」
と言ってカーテンを開けてみると、ギラギラと太陽が照り付けていた。
「こりゃあ雪焼けしそうだなあ」
手を頬に当て独り言を言っていると、2階から真理が降りてきた。
かといって、また田中さんの部屋に行くのも気が引ける……。
だが今行かないと、もう二度と真理は……。
決心したぼくは……
「……真理?本当に真理なのか?答えてくれ!」
信じ難かったが、信じたかった。
しかし、これは現実なのだ。
「……ええ、そうよ」
──はっ!そういえば、ぼくが可奈子ちゃんとやっていても真理はただ『色仕掛けね』と言い放った。裏では真理が色仕掛けをしていたということか。そうか!──
(※スーパーファミコン「かまいたちの夜」参照)
「確かに悲しかった。だけど今ぼくは真理のこと全然嫌いじゃあない。さっき『話もしたくない』って言ったけど、やっぱりぼくには真理しかいないんだよ。真理はぼくのこと好き?」
正直なところ、殺してやろうかとは思ったけど、ぼくも可奈子ちゃんとやろうとしていたのだから……。
「……透。私、透にはなんて言ったらいいか……。あんなことまでして、私、私……」
真理は泣き崩れた。
「もういいんだよ。ほら、ぼくに笑顔を見せてくれないか。最高の笑顔をぼくだけに」
「と……と、透ー!」
ぼくが入った部屋は自分の部屋とは内装が全く違うのかと思うぐらい、部屋中血だらけだった。
「うわあああ!」
つい情けない声をあげてしまった。
そして……真理の裸体。
それは想像以上に白い肌で、ピンクの乳首。
いつもならぼくの息子はビンと逆立ちするのだろうが、恐怖でいつも以上に縮まっていた。
顔こそは真理なのだが、形相が違うのでぱっと見分からなかった。
そしてはっと気がついた。
「オーナーこれはどうします?」
みどりさんが調理場から出てきた。
「あ、みどりさん。おはようございます」
「あ、おはよー」
ニコッと笑いながら挨拶してくれた。
「じゃあぼくは準備があるから……」
と言って小林さんも談話室からいなくなった。
「とおる!」
んっ……あっ、真理だ……。
「私、イッちゃう。ああ、イク〜」
なっ、ま……真理?
よく見ると2人とも裸だ。
真理が騎乗位でガンガン体を上下に動かしているのだ。
その光景を目の前にして、どうしてこんなことになっているのか。
何がなんだか分からなかったが、ぼくも気持ちよくなってきて、そんなことどうでもよくなった。
「朝食の仕度ができましたよ」
1階から今日子さんの声が聞こえてきた。
ぼくは真理と共に食堂へ駆け込んだ。
そこには……
その後、皆で会議をしたが答えは……『誰かの悪戯』もしくは『部屋を間違えた』ということになった。
ふっ、「お前ら全員スパイやろ」と言ってやりたかった。
そこには、勿論田中さんはいなかった。
部屋で星の数でも数えているのだろう……。
「もうぼくは寝ますよ?くだらない……」
そう言い残してぼくは自分の部屋へと向かった。
裸の真理を持ち上げ、真理の部屋に行き、ベッドに寝かせた。
勇気がない。
ぼくは真理を心から愛しているし、彼女もぼくを好きだと言ってくれた。
だけど……。
そのとき真理が目を覚まし、恥ずかしそうにぼくに言った。
「透、私の裸……見たの?」
「……ああ、とても美しかったよ。……デヘデヘ」
「あ、透、おはよ。珍しいわね、透が早起きだなんて……」
「え、ああ。夢にうなされて起きたんだ」
「へえ、どんな夢だったの?」
「どんなって……いや、えっと、あんまり覚えてないや。夢って起きたら忘れるもんだね」
と言って誤魔化した。
夢の内容なんて言えるもんじゃない……。
2階からぞろぞろと皆降りてきた。
そうと分かれば、ぼくはそれに見合った行動を取るしかない!
……そして全ての行動を終えたとき、小林さんがOL3人組ともめていた……。
「どうしたんです?皆さん、顔色が悪いですよ?」
震えながら可奈子ちゃんが……ぼくの可奈子ちゃんが、1枚の紙を渡し、
「部屋に戻ったら……こんな紙が……」
そこには──。
「あの幽霊の仕業なんだ」
「あの話の……、真理のお母さんだっていう、あの?」
「ああ、そしてぼくの姉さんでもあるんだ」
「ええっ?」
「この霊を抑えられるのはぼくしかいない」
「美樹本さん!」
美樹本さんは立ち上がり、真理に向かって何やらお守りを投げつけた。
「う〜まい!」
この、口がとろけるようなホワイトソースは……。
一体小林さんはどうやって調理しているのだろう?
気が付いたらぼくたちは出てきた料理を全て食べ終わっていた。
「えっ、もう終わり?」
みどりさんに聞いた。
「え、ええ」
みどりさんは申し訳なさそうに言った。
どうやらぼくは真理をオカズに料理を食べていたようだ。
「真理……、ご馳走様」
「えっ?私に言ってどうすんのよ。叔父さんに言ってよ」
“真理”にご馳走様と心を込めて言って、食堂を出た。
田中さんの部屋のドアを開けた。
するとそこには素っ裸の真理と田中さんの……死体?
「あれ?幽霊篇だよ、こりゃあ」
真理の髪の毛がぼくに襲い掛かってきた。
「危ない!」
美樹本さんがかばってくれた。
「美樹本さん、これは?」
「そういえば今日の練習はきつかったなあ……足腰がガタガタだよ」
“腰”
そうだ……ぼくはまた明日から始まる特訓に備えなければならない。
可奈子ちゃんはよく見たらそんなに可愛くないし……やっぱもう寝よっと。
ぼくは部屋の電気を消してベッドに潜り込んだ。
……。
「……おる、……とおる」
「本当にいたんだから、信じてよ」
「信じるも何も……」
おっと。
ぼくは『ぼくがこの台詞を言うことで真理のヘアヌードが見られる』という言葉を飲み込んだ。
「そろそろ下降りない?」
「えっ、珍しいなあ。透がそんなことを言い出すなんて……」
「え、そう?」
運転は真理に任せ、ペンション『シュプール』へ向かった。
「透、明日も特訓ね」
「はい」
早くボーゲンから抜け出したいものだ……。
「あ、見えてきた。ペンション……『クヌルプ』?あれ、そんな名前だっけ?」
外見は全くの『シュプール』だ。
ペンションの扉を開けると……。
「そう言わず聞いて!あれは仕方なかったのよ。彼が雑誌のライターだということは透も知っているでしょう。今、不景気だから……彼の力でこのペンションを守ってほしかったのよ。でも彼は、『その代わり、お前と寝てえなあ』と言ってきたわ。『そうすればこのペンションの星は10個にする』とも言ってきたわ。叔父さんにはいつもお世話になってるし、ここ潰れるとスキー好きの私には困るのよね。だから寝たわ。許してくれとは言わないけど、ごめんなさい……じゃあ……」
真理は振り返りぼくに背を向けた。
「待てよ真理!」
「昨日このペンションで何が起こったんだい?」
「昨日?」
「殺人事件篇?幽霊篇?それともスパイ、スーファミ、宝探し、オカマ……まさか不思議のペ……」
真理がきょとんとした顔でぼくを見ている。
「どしたの?顔に何かついてる?」
ぼくは尋ねてみた。
「人殺しのくせに……」
美樹本さんがぼそっと呟いた。
「人殺し?」
「ああ、この男は紛れもなく人殺しなんだ」
『本編ではあんたが殺人鬼でしょうが!』と心の中でツッコミを入れた。
「誰を殺したんです?」
「そこにいる真理ちゃんのお母さんだよ。そしてそのお母さんが、このペンションに出現する幽霊なんだ」
「起きろ透君、火事や!」
「え?」
「あの可奈子ちゃんの部屋が火元や。もう皆は避難しとる。残りは透君と真理ちゃんだけやで。早くせんと丸焼きや!」
なっ、真理!
ぼくは部屋を飛び出し、真理の部屋へと駆け込んだ。
「真理!」
ここには真理しかいない。
ということは田中さんを殺したのは……真理?
「危ない!」
後ろから誰かが覆い被さってきた。
……美樹本さんだ。
彼が助けてくれなければ、今頃ぼくは真理の髪の毛で切り殺されていただろう。
「ど、どういうことなんです?」
「おはよう、透」
真理の声がぼくのすぐ横から聞こえてきた。
よく見てみると、真理もぼくも裸で1つのベッドに寝ている。
「こ、これって……まさかぼくたち……」
「え?覚えてないの?あんなに激しく愛してくれたのに……」
「激しいってこんな風に?」
第2ラウンドが始まった。
シャワーを浴び終えたぼくは、素早く服を着て1階に降りた。
1階では小林さんが朝食の準備をしていた。
「おはようございます」
「あ、おはよう。どう、熟睡できた?」
「ええ。熟睡も熟睡、凄くリアルな夢まで見ましたよ」
「へえ、ぼくは現……」
と言いかけたとき……。
「なっ、これは今やってるドラマのタイトルじゃないか」
「ラスベガスのお話よね、確か」
『くっくっく。真理、これはニューヨークの話だよ』
とノドまで出たが、ここは真理のメンツを立てた。
「そろそろ部屋に戻ろっか。トランプでもしない?」
「こんやはもう寝るよ。疲れたんだ。ごめん」
「へんなの……」
疑いの眼差しを避けるように、ぼくは紙の隅に目をやった。
そこには小さな文字で『縦読み』と書かれていた。
そう、これから変な夜が始まることになる……。
春子さんの部屋のドアを開け……たと同時に香山さんのツバメ返しが……。
「透?」
「ああ、煙で姿が見えないから、もう1回声を出してくれ!」
……あれ?
返事がない……まさか、気でも失ったんじゃ!
ぼくは急いで部屋のベッドの方へ走った。
真理を探している内に煙がいっそう激しさを増してきた。
くそっ!
くそっ!
くそっ!
半分泣きかけだった……。
部屋に戻ったぼくは、今夜起きる可奈子ちゃんとの夜のことを思い出した。
ここにずっといれば、確実にできる。
しかし真理のあのウインク、あれは『いつでもおいで』って感じだった。
どうしよう……うーん。