気付いてみれば簡単なことも、気付くまでが一苦労。
更に気付いてもそれが幸福なこととは限らない。
ならば気付かないほうがいいのだろうか……。(カム作)
気が付けば
「おはようございます」
ぼくが目覚めたのは森の中だった。
え、森の中?
「ここは一体……」
「ここは……何処でしょう?」
「君は、だれなんだい?」
「私は中川友子。あなたは?」
「ああ、ぼくは金本政治」
お互いの自己紹介が終わると、ふと気付いた。
「何なんだ?森が全く動いてない」
「そうなのよ。さっきから森がずっと動かないの」
完全に止まっている。
風が全くないのか、それとも……。
中川さんはぼくよりも頭が良さそうだったので、これからどうするべきか聞いてみた。
「これから、どうするの?」
「私はここから出るわ、とりあえず」
間髪を入れずに中川さんは答えた。
「じゃあぼくも出ようかな」
しかし何故こんな所に迷い込んだのだろう。
確かぼくは会社帰りにおでん屋に寄って、酔っぱらって……。
あれ?
それから何をしてたんだっけ。
くそっ、思い出せない。
そうだ。
中川さんはどうやってここに迷い込んだのか聞いてみよう。
「中川さんはここに来る前何してたの?」
「私は絵を書いていたの。そしたら母の声が聞こえてきて……、確か『夕食ができたわよ。』って」
「夕食?何時頃だった?」
「6時半頃だった」
「えっ、ぼくが居たのは9時半だったけど」
すでに疑問が頭の中で回り始めていたぼくとは逆に、中川さんは冷静になって言った。
「私がいたのは1980年12月31日」
ぼくは耳を疑った。
こ、ここは現代じゃないのか?
「ぼくは1998年12月31日に……いた」
「私は22歳。あなたは?」
「ぼくも22歳……あっ、でも君の時代ではまだ4歳か。君は、ぼくの時代では40歳か」
「そうね。じゃあここから出ましょうか」
「出るって言ったって、どうやって?」
「歩くしかないでしょ?」
と言って中川さんは当たり前のように歩き出した。
「ちょっ、待ってよ。ぼくも行くってば」
ぼくは素早く立ち上がると、中川さんを追い駆けた。
相変わらず森は止まったままだ。
……ぼくらは走り始めた。
中川さんと走ること約30分。
全く出口らしい物は見つからない。
途方に暮れそうになるぼくに、中川さんは
「さあ、早く出ましょう?」
と言って慰めてくれていた。
だが、もうそれも限界だ。
「もう無理だよ、こんな……」
中川さんも同じ気持ちだったのか、立ち止まってしまった。
その時、ふとぼくはあることに気付いた。
「ねえ、中川さん。こんなに走ってるのに、全然……」
「あっ、そういえば……全く疲れてない!」
中川さんは声を張り上げた。
そうだったのか。
ぼくはやっと気が付いた。
最初はただ出口を見つけるのに夢中になってたから気付かなかったが。
「ねえ、まさか……」
全く動かない森に、走っても疲れない体。
そう、これらが意味することは2つの内1つ。
ぼくが夢を見ているか、もしくは2人とも死んだか……。
「ね、ねえ金本君?」
ただただ笑うことしかできなかった。
「ハハハハハハハハ!」
見せつけられた現実を受け止められなかった。