ぼくはいつものように会社への道を歩いていた。
「うわあ!」
急に変な男がぼくにぶつかってきた。
……ん?
なんだ、この手紙みたいなものは……。
『明日までに1億円用意しろ。さもなくばお前を殺す』
ぼくは気を失った。
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仕方なく奢ることにした。
勿論ぼくは、この辺りで一番安い店を選んだ。
「んー、美味しい!」
女の子達は皆、美味しそうに食べている。
そりゃ、奢りだから美味しく感じるさ……。
ふとぼくは横を向いた。
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中身がとても気になった。
ぼくはそっとロックを外し、黒いケースを開けた。
そこには白い粉が大量に入っていた。
麻薬か……まあ、そんなことはもうどうでもいい。
ぼくはとても幸せな気分に包まれた。
ゆっくり目を閉じ、眠ることにした……。
終
「喜んで!」
「えっ、いいんですか?」
彼女は顔を赤らめた。
カ……カワイイ。
「きょ、今日はぼくが奢るよ!」
と言った、その時だった。
▼
サインすることにした。
えーと、野田……一郎っと。
その時だった。
船田さんは拳銃を取り出した。
「なっ」
それ以上なにも言うことはできなかった。
終
逃げ出した。
……これで金は岸本あたりが払うことになるのかな?
もうぼくにはなんの関係もないことだ。
旅に出よう。
ぼくは会社を辞めて旅に出た。
終わりなき旅へと……。
▼
「昼食はあなたで充分です!」
「は?」
……いけない、いけない。
「いえ、昼食をあなたと食べれるなんて最高です!」
「じゃあ、いいんですね?」
「もちろん!」
▼
船田さんのことだ。
あの人はなぜこんなぼくに1億円も貸してくれたのか。
考えれば考えるほど謎は深まるばかりだった。
▼
やっぱりやめておこうと思った。
「考え直した方がいいですよ?こんな三流サラリーマンに1億も……」
「三流だから貸すんですよ」
「は?」
「あなたが死んでも困る人間はほとんどいない。そして私は生命保険会社の社員」
ぼくは耳を疑った。
▼
逃げてやろうと思った。
……昼食時間まであと5分。
ぼくはそそくさと部屋を出た。
やった、逃げ出したぞ!
「あら、野田さん。まだ早いですよ?」
捕まった。
▼
生命保険会社?
船田治?
「……1億円」
「は?」
「いるんでしょ?明日までに」
「は……はあ」
▼
ふとぼくは我に返った。
「岸……本……」
ぼくはとんでもない罪を犯してしまった。
これからどうしよう。
……どうしようもなかった。
ぼくの長くて暗い刑務所生活が始まった。
終
間に合わなかった……。
さあ、仕事するか。
「あのお、野田さん?」
「えっ!」
急に呼ばれたのでびっくりした。
「いっしょに昼食……食べに行きません?」
▼
有難く受け取ることにした。
いやあ助かった。
これで殺されずに済むぞ!
「ただし、1つだけ条件があります」
「えっ?」
そ、そりゃそうだ。
タダで金なんか貸す人なんていないよな……。
▼
「みんなー!今日のお昼、野田さんの奢りだってー!」
「は?」
彼女はそれだけ言うと、さっさと仕事を始めてしまった。
じょ、冗談じゃない!
「はは、お前やられたな」
同僚の岸本が冷やかしてくる。
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「……ん?」
ここはどこだ?
「お目覚めのようですね?」
「あ、あなたは?」
「ああ、私……こういう者です」
そう言って男は名刺をくれた。
▼
岸本を殺すことにした。
「死ね!」
「うっ、やめろ……野、田……」
岸本は動かなくなった。
「キャーッ!」
女達が騒ぎ出した。
▼
「この中に1億円が入ってます。返済はいつでも構いませんよ」
ぼくは、船田さんに渡された茶色のバッグを開けてみた。
「す、凄い!」
こんなに沢山の1万円札を一度に見たのは初めてだった。
「じゃあ、頼みましたよ?」
「は……はい」
▼
「ここにサインしてくれたら行きます!」
ぼくは婚姻届を差し出した。
「……そ、そんな突然言われても……」
だがぼくは彼女の瞳を見つめ続けた。
「分かりました……」
ヤッター!
▼
絶対に許さない!
ぼくは船田さん……いや、船田を追いかけた。
「待てコノヤローッ!」
……いない。
どこに逃げたんだ?
けど実害も無かったことだし、いいや。
▼
岸本を犯すことにした。
悶える岸本、逃げ惑う女達、警察を呼ぶ店員……。
それらの全ても、ぼくの興奮剤としてしか存在しなかった。
ぼくは自分の息子が入るべき穴を見つけた。
さあ、行こう!
快楽の地へ!
終
1億円のことだ。
考えれば考えるほど謎は深まるばかりだった。
▼
サインしないことにした。
うん。
そう簡単にサインなんてするもんじゃない。
「残念ですけど……」
「そうですか。じゃあ、この手紙は返してもらいますね?」
それだけ言うと、船田さんは手紙を持って去っていった。
▼
行き止まりだ。
ぼくはがっくりと下を向いた……ん?
地面に小さな箱がある。
ぼくは手にとって、その箱を開けてみた。
とても幸せな気分だった。
ゆっくり目を閉じ、眠ることにした……。
終
行き止まりだ。
仕方ない……戻ろう。
ぼくは、とぼとぼと歩き出した。
▼
「で、条件ってなんですか?」
そう尋ねると、船田さんは黒いケースを取り出した。
「なんですか?これは……」
「あまり深く関わらないことです。これを明日の午後7時にここへ持っていってください」
そう言うと、船田さんは1枚の紙をぼくに渡した。
「そ……それで、1億円はどこに?」
▼
「それじゃあ、まさか……」
「そう、1億円を返せなくなった場合のために、ここにサインをしてください」
げっ!
契約書だ。
受取人は……船田治。
ふう。
ぼくは考えた。
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とりあえず助かったので許した。
……ふう。
!
しまった!
すっかり忘れてた!
会社に遅れる!
▼
あれから10年。
今では2人の子供に恵まれ、幸せな時を過ごしている。
もうすぐぼくも部長か……。
「ねえ、あなた……幸せ?」
妻の問いに、ぼくは優しくこう呟く。
「ああ……」
完