ぼくはいつものように会社への道を歩いていた。
		「うわあ!」
		急に変な男がぼくにぶつかってきた。
		……ん?
		なんだ、この手紙みたいなものは……。
		『明日までに1億円用意しろ。さもなくばお前を殺す』
		ぼくは気を失った。
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		仕方なく奢ることにした。
		勿論ぼくは、この辺りで一番安い店を選んだ。
		「んー、美味しい!」
		女の子達は皆、美味しそうに食べている。
		そりゃ、奢りだから美味しく感じるさ……。
		ふとぼくは横を向いた。
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		中身がとても気になった。
		ぼくはそっとロックを外し、黒いケースを開けた。
		そこには白い粉が大量に入っていた。
		麻薬か……まあ、そんなことはもうどうでもいい。
		ぼくはとても幸せな気分に包まれた。
		ゆっくり目を閉じ、眠ることにした……。
		終
	 
	
		「喜んで!」
		「えっ、いいんですか?」
		彼女は顔を赤らめた。
		カ……カワイイ。
		「きょ、今日はぼくが奢るよ!」
		と言った、その時だった。
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		サインすることにした。
		えーと、野田……一郎っと。
		その時だった。
		船田さんは拳銃を取り出した。
		「なっ」
		それ以上なにも言うことはできなかった。
		終
	 
	
		逃げ出した。
		……これで金は岸本あたりが払うことになるのかな?
		もうぼくにはなんの関係もないことだ。
		旅に出よう。
		ぼくは会社を辞めて旅に出た。
		終わりなき旅へと……。
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		「昼食はあなたで充分です!」
		「は?」
		……いけない、いけない。
		「いえ、昼食をあなたと食べれるなんて最高です!」
		「じゃあ、いいんですね?」
		「もちろん!」
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		船田さんのことだ。
		あの人はなぜこんなぼくに1億円も貸してくれたのか。
		考えれば考えるほど謎は深まるばかりだった。
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		やっぱりやめておこうと思った。
		「考え直した方がいいですよ?こんな三流サラリーマンに1億も……」
		「三流だから貸すんですよ」
		「は?」
		「あなたが死んでも困る人間はほとんどいない。そして私は生命保険会社の社員」
		ぼくは耳を疑った。
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		逃げてやろうと思った。
		……昼食時間まであと5分。
		ぼくはそそくさと部屋を出た。
		やった、逃げ出したぞ!
		「あら、野田さん。まだ早いですよ?」
		捕まった。
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		生命保険会社?
		船田治?
		「……1億円」
		「は?」
		「いるんでしょ?明日までに」
		「は……はあ」
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		ふとぼくは我に返った。
		「岸……本……」
		ぼくはとんでもない罪を犯してしまった。
		これからどうしよう。
		……どうしようもなかった。
		ぼくの長くて暗い刑務所生活が始まった。
		終
	 
	
	
		間に合わなかった……。
		さあ、仕事するか。
		「あのお、野田さん?」
		「えっ!」
		急に呼ばれたのでびっくりした。
		「いっしょに昼食……食べに行きません?」
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		有難く受け取ることにした。
		いやあ助かった。
		これで殺されずに済むぞ!
		「ただし、1つだけ条件があります」
		「えっ?」
		そ、そりゃそうだ。
		タダで金なんか貸す人なんていないよな……。
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		「みんなー!今日のお昼、野田さんの奢りだってー!」
		「は?」
		彼女はそれだけ言うと、さっさと仕事を始めてしまった。
		じょ、冗談じゃない!
		「はは、お前やられたな」
		同僚の岸本が冷やかしてくる。
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		「……ん?」
		ここはどこだ?
		「お目覚めのようですね?」
		「あ、あなたは?」
		「ああ、私……こういう者です」
		そう言って男は名刺をくれた。
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		岸本を殺すことにした。
		「死ね!」
		「うっ、やめろ……野、田……」
		岸本は動かなくなった。
		「キャーッ!」
		女達が騒ぎ出した。
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		「この中に1億円が入ってます。返済はいつでも構いませんよ」
		ぼくは、船田さんに渡された茶色のバッグを開けてみた。
		「す、凄い!」
		こんなに沢山の1万円札を一度に見たのは初めてだった。
		「じゃあ、頼みましたよ?」
		「は……はい」
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		「ここにサインしてくれたら行きます!」
		ぼくは婚姻届を差し出した。
		「……そ、そんな突然言われても……」
		だがぼくは彼女の瞳を見つめ続けた。
		「分かりました……」
		ヤッター!
		▼
	 
	
		絶対に許さない!
		ぼくは船田さん……いや、船田を追いかけた。
		「待てコノヤローッ!」
		……いない。
		どこに逃げたんだ?
		けど実害も無かったことだし、いいや。
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		岸本を犯すことにした。
		悶える岸本、逃げ惑う女達、警察を呼ぶ店員……。
		それらの全ても、ぼくの興奮剤としてしか存在しなかった。
		ぼくは自分の息子が入るべき穴を見つけた。
		さあ、行こう!
		快楽の地へ!
		終
	 
	
		1億円のことだ。
		考えれば考えるほど謎は深まるばかりだった。
		▼
	 
	
		サインしないことにした。
		うん。
		そう簡単にサインなんてするもんじゃない。
		「残念ですけど……」
		「そうですか。じゃあ、この手紙は返してもらいますね?」
		それだけ言うと、船田さんは手紙を持って去っていった。
		▼
	 
	
	
	
		行き止まりだ。
		ぼくはがっくりと下を向いた……ん?
		地面に小さな箱がある。
		ぼくは手にとって、その箱を開けてみた。
		とても幸せな気分だった。
		ゆっくり目を閉じ、眠ることにした……。
		終
	 
	
		行き止まりだ。
		仕方ない……戻ろう。
		ぼくは、とぼとぼと歩き出した。
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		「で、条件ってなんですか?」
		そう尋ねると、船田さんは黒いケースを取り出した。
		「なんですか?これは……」
		「あまり深く関わらないことです。これを明日の午後7時にここへ持っていってください」
		そう言うと、船田さんは1枚の紙をぼくに渡した。
		「そ……それで、1億円はどこに?」
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		「それじゃあ、まさか……」
		「そう、1億円を返せなくなった場合のために、ここにサインをしてください」
		げっ!
		契約書だ。
		受取人は……船田治。
		ふう。
		ぼくは考えた。
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		とりあえず助かったので許した。
		……ふう。
		!
		しまった!
		すっかり忘れてた!
		会社に遅れる!
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		あれから10年。
		今では2人の子供に恵まれ、幸せな時を過ごしている。
		もうすぐぼくも部長か……。
		「ねえ、あなた……幸せ?」
		妻の問いに、ぼくは優しくこう呟く。
		「ああ……」
		完