小学生か中学生の時に書いた小説。
宮沢賢治マニアが建てたレストランで起こる悲劇。
いかなる罠に遭遇しても、気を抜かずに対処すべきである。(カム作)
少年の悲劇 第1章〜デパート〜
その日は雨が降っていた。
その雨を避けるかのように走ってくるのは、3人の少年達だった。
「ちょっと雨宿りしようぜ!」
と言いながらデパートに入ってきたのは、中学2年の森田進一。
この3人組のリーダーとも呼べる存在だ。
「待ってくれよぉ」
後の2人は、森田の同級生の高井蛍と町村武男である。
「すげぇ、人が一杯だ……」
今日は急に雨が降ってきた、ということもあるが、ただでさえ日曜日は人の出入りが多いのに、それに加えて雨が降ってきたのでは凄い数の人がデパート内にいると考えられるだろう。
「どうする?」
進一は2人の顔を見て言った。
「お金もあるし、何か食べようよ」
ちょっと太っている武男が言った。
「本でも読みに行こうぜ」
メガネをかけている、頭の切れる蛍が言った。
「じゃ、何か食ってから本読みに行こうぜ」
そう言って、3人の少年達は3階のレストランに入っていった。
「並んでるな……」
「ぼく、隣りのレストラン並んでるか見てくるよ」
武男は歩いていった。
──5分後。
「おせーな武男の奴、何やってんだ?」
むしゃくしゃしている進一に、蛍が言った。
「行ってみようぜ。嫌な予感がするんだ」
「お、おう」
その時、蛍は真剣な目をしていた。
隣りのレストランのドアを開けた瞬間、2人は驚いた。
少年の悲劇 第2章〜隣りのレストラン〜
ドアを開けると、そこにはまたドアがあったのだ。
「何なんだ?この狭い部屋とこのドアは」
2人が部屋に入りきった途端、今開けたドアが勝手に閉まった。
「ん?開かないぞ!どうする、進一?」
「す……進んでみるか?」
「お、おう」
そう言って2人はドアを開けた。
そしてまた入りきった途端にドアが閉まった。
そこには、分厚いステーキがあった。
「いっただっきま〜っ……」
進一はステーキを食べようとしたが、蛍に止められた。
「何すんだよ、蛍!」
「進一、やめとけ」
「何でだよ!」
「よく見てみろよ。このステーキはな、人肉なんだよ……」
「えっ」
進一は驚いた様子で肉を眺めた。
「……」
「さっ、次行こうぜ。次は犬か?猫か?それともネズミか?」
蛍はわざと明るい声を出しながら、ドアを開けた。
やはり2人が入りきった途端、ドアが閉まった。
「げっ!」
進一と蛍は吐きそうになった。
なぜなら、その部屋は血で染められていたからである。
進一は目を閉じ、口を押さえて、ドアを開けた。
このドアも2人が部屋に入りきった途端に閉まった。
そして進一と蛍は、そのまま目を開けずに口を押さえて次のドアを開けようとしたが、開かない。
「くそったれ!」
進一はドアを蹴ったが、ドアはピクリともしなかった。
思い切って進一は目を開けた。
続いて蛍も同じように目を開けた。
「あっ!」
そこには……。
少年の悲劇 第3章〜再会と謎〜
武男がいた。
気絶していた。
いや、いびきをかいて寝ていた。
「武男、起きろよ!」
進一が武男の体を揺さぶった。
すると武男は、閉じていた目を開いた。
「進ちゃん!蛍ちゃん!」
武男は目をこすりながら喜んだ。
「進ちゃん、蛍ちゃん、ぼくを助けにきてくれたんだね」
「ああ、そうだ」
進一が言った。
「進ちゃん、このドアの前にこんな物が落ちてたんだけど……」
それはドアの鍵と1枚の紙切れだった。
「武男がそこで寝ているということは、勿論、鍵穴には入れたんだよな?」
進一は当たり前のように言った。
「ううん。だって鍵穴ないもん」
武男は当然のように答えた。
そして進一は鍵穴を探したが、やはり武男の言ったとおりであった。
進一は、さっき武男からもらった紙切れを見た。
その様子をうかがったのか、武男がこう言った。
「ね、腹立つでしょ。『帰れバーカ』なんて」
蛍は、床や天井や壁を見ている。
その蛍に進一が言った。
「何やってんだ?」
「調べてんだよ。見て分かんねーか?」
「そりゃ分かるけどよ……」
「えっ、もしかして進ちゃん、何か分かったの?」
武男が口をはさんだ。
「ああ……」
「ほう。じゃあ何がどう分かったのか、教えてみろよ。名探偵さん」
蛍が嫌味ったらしく言った。
「それでは教えてしんぜよう」
「進ちゃん、もったいぶってないで早く言ってよ」
「言うまでもないよ。この紙を見て一発で分かったんだ」
そう言って進一は2人に紙を見せた。
「も、もしや……!」
と2人は同時に後ろを振り返った。
少年の悲劇 第4章〜最後?最期?〜
「そう、オレ達3人ともが入ってきたドアだろ?」
進一はドアを見ながら言った。
だが、そのドアには鍵穴がなかった。
「フッ、とんだ名探偵だこと」
と蛍がおちょくってみたが、
「何言ってんだよ、帰るぞ」
そう言って進一は鍵を放り投げ、ドアの方へと歩いていった。
「ま、まさか鍵なしで開く訳ねーだ……」
『ろ』と言いかけた時、進一はいかにもあっさりとドアを開けてしまったのだ。
「さっ、帰るぞ」
進一の言われるままに、2人とも歩き出した。
しかし最後のドアに思わぬ罠があったのだ。
進一と蛍は絶句した。
「か、鍵穴……だよな、これ」
ドアは開かない。
戻ろうとしたが、そちらのドアも開かない。
「か、完全に閉じ込められた……」
蛍がうなだれると、
「どうしたの?お2人さん」
と武男が前に出た。
「閉じ込められたんだよ!」
進一が怒鳴った。
「やっぱり2人ともまだまだ、だね」
「何ィ?」
進一と蛍は怒りをあらわにした。
「うるせえんだよ!1人でどっか行って、オレ達がいねえと何もできねえくせして!」
「あっ、そう」
そう言って武男はさっきの鍵をポケットから取り出し、鍵穴に差してドアを開けた。
「何だよ、持ってるならそう言えよ」
進一と蛍はほっとしたように言った。
そして武男はこう言った。
「じゃあね」
バタン──。
と音がして、そのドアはもう開くことはなかった。