石がくれた限りない力。
その力を糧に明日へ向かう男。
彼に待ち受けるのは希望か絶望か。(カム作)
ストーンボーイズ 目次
■第1回 … 雨の繁華街
■第2回 … ネオンの意図
■第3回 … 暗闇の悪戯
■第4回 … 老人の告白劇
■第5回 … 疑惑の欠片
■第6回 … 未完のロンド
ストーンボーイズ 第5回 疑惑の欠片
老人は再び喋り始める。
「この店に迷い込んでくる者は少ない。限られた条件が揃わなければ、目にすることも不可能だからな。増してや、この部屋まで辿り着いたのは、お前さんが初めてだ」
あれほど大量の電飾が施されていたら、誰でも気づくはずだが……。
確かに看板の文字すら見えないほどのまばゆい光だったが、周りに並ぶのは店ばかりで、ここも同様に店としての認識はできた。
この部屋に辿り着いたのも、置き去りにされる恐怖に負けて、ただ黙って付いてきただけだ。
しかし、そんな思惑は老人にはまるで通じない。
「早い話が、お前さんは選ばれし者。裁きの石を受け継ぐべき者だ」
いよいよ老人は詐欺師の本性をさらけ出すに違いない。
老人は一息つくと、河原に落ちているような、ごくごく普通の石を椅子の裏から取り出した。
俺はその石より、この先の老人の言動が気になっていた。
どんな方法を使って大金を巻き上げようとするのだろうか。
「この石にはワシの全身全霊が刻み込まれておる。もちろん、ただでやるわけにはいかん」
ここまでくると、もう無意識にワクワクせざるを得ない。
「太古の昔より、石には人の意志が宿る物とされてきた。この一見ただの石に見える物に対して、ワシはお前さんがどれだけの意志を見せるのかを知りたい」
……なるほど。
その意志というのが、金を幾ら積めるか、ということか。
老人は黙ったまま俺から目を逸らさない。
一方の俺は視点が定まらず、次の一手を待つ棋士のように老人と石を交互に眺めていた。
すると老人は石を持った手を、上下左右に不規則な動きでゆっくりと動かし始めた。
俺の視点は自然と石にのみ集中する形となった。
更に、さもそれが当たり前かのごとく、徐々に意識が朦朧としてくる。
まさか、この老人は本当に黒魔術師なのか……。
薄れゆく理性の中で必死にそんなことを考えていると、呪文のような言葉がはっきりと脳に響いた。
「魔法陣の中心へ」
そのとき、すでに俺の体はその言葉に逆らえない状態にまで達していた。
吸い寄せられるように部屋の中心へと歩き始めた。